数理イノベーション

計算物理で自然エネルギーの活用を目指す

捨てられている電力:出力抑制という現実

晴れた日の昼、太陽光発電の出力が需要を上回るとき、電力系統の安定を保つために 発電は強制的に停止されます。これが「出力抑制」です。 2025年、九州エリアでは年間142日の抑制が発生しました。 全国では太陽光だけで約18億kWh——一般家庭およそ50万世帯の年間消費に相当する電力が、 発電できるのに使われないまま捨てられています。 しかも2026年は、上半期だけで前年1年分の抑制量を3割上回りました。

全国の太陽光出力抑制量(各エリア需給実績より当サイト集計)
2024年:約14.0億kWh / 2025年:約18.3億kWh / 2026年:約23.8億kWh(1〜6月のみ)

FITからFIPへ:制度の大転換

2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)は、「いつ発電しても同じ価格」で 電気を買い取る仕組みでした。この時代は終わりに向かっています。 後継のFIP制度では、電気は市場価格で売り、その上にプレミアムが付与されます。 同じ1kWhでも、電気が余る昼に売るのと、需要が高まる夕方に売るのとでは価値が異なる—— 「いつ発電し、いつ売るか」が収益を左右する時代への転換です。 この転換は、気象の理解と市場データの定量分析を、再エネ事業の必須科目に変えました。

迫られる意思決定

FIP転換か、FIT継続か。蓄電池を併設するか。リパワリングに投資するか。 パネル洗浄は割に合うのか。売るか、持ち続けるか—— FIT電源のオーナーは今、どれも数十万〜数百万円規模の判断を迫られています。 そして提案を持ってくる相手——アグリゲーター、O&M業者、施工業者——は、 いずれも自社の商品が売れる選択肢を勧める立場にあります。 意思決定はストレスです。比較する物差しが手元にないときは、なおさら。

当サイトは、どの選択肢も推奨しません。提供するのは判断材料だけです。 まずは無料のFIP転簡易診断で、ご自身の発電所の「現在地」——推定発電量、 市場価格の捕捉率、エリアの出力抑制実績——を確認してみてください。 リパワリングや洗浄に投資する価値を考えるときの、最初の物差しになります。

まず現在地を測る — FIP転簡易診断(無料)→

そして蓄電池・リパワリング・FIP転換の契約——実際に数百万円を動かす段階では、 地域平均の物差しでは足りません。その段階のために、お客様の発電所の 実発電データにもとづく詳細試算を有料で提供しています。 数百万円の判断に対して、物差しの値段は数万円。判断そのものは代行しませんが、 判断に耐える数字は用意します。

提供の3段構え
① 無料:FIP転簡易診断 — エリア実績と気象データによる現在地の把握
② 有料診断:発電健全性診断(3万円〜)・詳細試算(低圧5万円〜/高圧20万円〜、 蓄電池シナリオ・リパワリング投資判断込み)— 実発電データにもとづく個別分析
③ 顧問契約(月3万円〜)— 継続的な数字の相談相手  詳細はSERVICESへ →

その見積もり、検算できていますか

リパワリング(パネルの載せ替え)や大規模な蓄電池導入は、工事を伴う分、 提案する側とお客様の間の情報量の差が大きくなりがちです。施工には専門資格や 設備投資が必要なため、そもそも競合する提案を何社分も集めること自体が難しく、 提示された発電量予測や投資回収年数の妥当性を、外部から確認する手段が 限られているのが実情です。

私たちは、その見積もりが前提としている発電量・収益を、気象データと市場価格の 実績にもとづき独立にゼロから試算し直します。特定の施工業者の 提案を採点することはしませんが、ご自身で複数の見積もりを見比べ、 納得して契約するための物差しをお渡しします。

リパワリング投資判断診断を見る →

5km格子の下で起きていること

気象庁の数値予報は、メソモデル MSM(格子間隔5km)や局地モデル LFM(同2km)を 基盤とする、データ同化を備えた優れた公共財です。当サイトの解析でも基準として 活用しています。一方で、太陽光の事業性を左右する日射は、海陸風・湖陸風、 地形がつくる雲、局地的な霧といった、格子間隔より小さなスケールの現象にも 左右されます。5km四方の1格子の中に、晴れている場所と曇っている場所が同居する—— 発電所の収支に効くのは、まさにその差です。

ソリューション

私たちは、数値気象モデル WRF(Weather Research and Forecasting Model) を用いて、 公共の気象データを格子間隔1kmまでローカライズした気象解析を行います (解析事例はCOLUMNに公開しています)。さらにその解析結果を市場データ (JEPXエリアプライス・エリア需給実績)と組み合わせ、 太陽光発電の事業性算定まで一気通貫で実施できます。 計算物理の知見をもとに、「その場所で何が起きるか」を数字にすることが私たちの仕事です。

動画で見る

解析の考え方や事例を、YouTubeでも発信しています。

YouTubeチャンネルを見る →

気象サービス

01

局地気象解析

数値気象モデルWRF(格子間隔1km)による高解像度シミュレーションで、 気象庁MSM(5km)では捉えられない局地風・湖陸風・地形効果を解析します。 風況の初期評価、農業気象、発電所立地の局地気象リスク評価などにご活用いただけます。

02

WRF 構築・運用支援

WRFの環境構築からドメイン設計・物理スキーム選定、観測データによる精度検証、 運用体制の整備まで一貫して支援します。

03

想定価格(気象サービス)

  • WRF / WPS 環境構築一式(動作検証run込み):35万円〜
  • 局地気象解析(1ドメイン・1ヶ月ハインドキャスト+検証レポート):30万円〜
  • 精度評価・バイアス分析(既存WRF環境の診断):15万円〜
  • 技術相談:1.5万円/時(顧問契約 月額3万円〜)

※ 価格は税別。対象領域・期間・納期に応じて個別にお見積りします。

業務範囲(WRF関連サービス)

対応すること

  • WRF / WPS の環境構築、ドメイン設計・物理スキーム選定の支援
  • 過去事例のハインドキャスト(再現計算)の実行
  • 観測データとの突き合わせによる精度評価・バイアス分析

対応しないこと

  • 将来予測の提供(気象業務法上の予報業務許可を要するため)
  • 予測精度の保証
  • 予報運用システムの構築・運用の受託

電力・再エネサービス

04

再エネ収益性診断

気象実績・JEPXスポット価格実績・出力抑制実績にもとづき、太陽光発電所の収益性を 独立の立場から評価します。FIT継続とFIP転換の収支比較、出力抑制リスクの定量化、 蓄電池併設時の収支シミュレーション、リパワリング(パネル載せ替え)の投資判断分析に 対応します。載せ替え後の発電量・収益を独立にゼロから試算するため、EPC各社の見積もりを 見比べる際の物差しとしてもご活用いただけます。 簡易版はFIP転診断をご覧ください。

料金プラン(高圧・詳細版)

高圧・特別高圧の発電所を対象に、FIT継続とFIP転換の収益シミュレーションを3段階でご提供します。 ヒアリングによる前提条件のすり合わせ、成果物の精度へのこだわりまで、 規模とご用途に応じてお選びいただけます。

αアルファ

15万円〜
  • 収益シミュレーション結果(PDF 2〜5ページ)
  • FIT継続時/FIP転換時の期待収益・出力抑制リスクの基本指標

数字の傾向を手早く把握したい方向け

βベータ

30万円〜
  • 詳細レポート(PDF 7〜10ページ)
  • 出力抑制・市場価格データにもとづくリスクモデルの構築

事業計画・意思決定にそのまま使いたい方向け

γガンマ

50万円〜
  • βプランの全成果物
  • 前提条件の個別ヒアリング(複数シナリオ比較)
  • 必要に応じてオンラインMTG

込み入った条件・前提のすり合わせを重ねたい方向け

※ 価格は税別。着手金として50%を先払いいただきます。対象規模・データ条件により個別にお見積りします。

05

発電健全性診断

実発電データと気象データにもとづく期待発電量を比較し、パネルの汚損・劣化や 機器の不具合による発電ロスを定量化します。FIT単価や設備規模によらず、 小規模な発電所でも実額として意味のある損失を検出できるのが特徴です。 定期点検レポートとしての提供であり、常時監視・緊急対応は行いません(詳細は下記業務範囲)。

06

想定価格(電力・再エネサービス)

  • Web簡易診断(FIP転診断):無料
  • 発電健全性診断(単一サイト):3万円〜
  • 低圧・単一サイト 詳細試算:5万円〜
  • 高圧・詳細版(蓄電池シナリオ/リパワリング投資判断・感応度分析込み):α・β・γの3プラン制、15万円〜(詳細は上記参照)
  • 複数サイト一括:個別見積(2サイト目以降は割引)

※ 価格は税別。発電実績データ(30分値または時間値)のご提供を前提とします。

業務範囲(電力・再エネサービス)

対応すること

  • お客様ご提供データ(発電実績等)と公開データにもとづく分析・試算
  • 計算前提・データ出典をすべて開示した検証可能なレポートの納品
  • 解析結果に関する質疑応答

対応しないこと

  • 特定の事業者・商品の推奨、斡旋・仲介(紹介料も受け取りません)
  • 他社提案の優劣評価(セカンドオピニオン業務)
  • 将来予測の提供、収益の保証、投資判断の代行
  • 常時監視・異常の即時通知、緊急対応・現地点検・故障修理の手配

FIP転簡易診断 無料公開中

2026年度末から順次見直される優先給電ルールを背景に、FIT電源のFIP転換と蓄電池併設の検討が広がっています。 本診断は、所在地(緯度・経度)・設備容量・FIT調達価格の3項目を入力するだけで、 FIT継続とFIP転換後の年間収入を過去実績データのみで比較する簡易ツールです。 プレミアム単価は経産省告示ルールに基づき自社集計の市場参照価格から算出。 将来予測ではなく実績にもとづく試算であるため、前提が明確で検証可能です。

診断ツールを使う(無料)→

診断でわかること

01

年間推定発電量

気象庁MSM数値予報データ(全国約13,000格子点・時別)から、発電所最寄り格子点の日射プロファイルをもとに推定します。

02

FIT継続 vs FIP転換の年間収入比較

JEPXエリアプライス実績とFIPプレミアムの近似計算により、出力抑制の実績シナリオ3種(2024年・2025年・直近トレンド)で比較します。

03

市場価格の「捕捉率」

太陽光の発電時間帯はエリア平均より市場価格が安くなる傾向(カニバリゼーション)があります。お住まいのエリアでその影響がどの程度かを数値で示します。

04

蓄電池併設の時間シフト価値

日中の発電を高価格時間帯へシフトした場合の追加収入の目安を、エリアの価格実績から算出します。FIP転の収益性は実質ここで決まります。

出力イメージ(試算例:熊本県・50kW・FIT14円)

年間推定発電量:57,663 kWh(1,153 kWh/kW)
市場価格の捕捉率:78%(発電加重 8.1円 / エリア平均 10.3円)
九州エリア 2025年の出力抑制日数:142日(年間抑制率 6.3%)
FIT継続 約75.6万円/年 / FIP転換 約75.1万円/年(蓄電池なしではほぼ中立)
蓄電池シフト価値:7.3円/kWh → 年間 約+12.6万円 の上積み余地

※ 使用データ:気象庁MSM日射実績(2024–2025年)、JEPXスポット価格実績(2024–2026年)、各エリア需給実績にもとづく出力抑制実績(2024–2026年)。 本診断は過去実績にもとづく簡易試算であり、将来の収益を予測・保証するものではありません。 パネル方位・傾斜・経年劣化・個別の接続契約条件は考慮していません。

詳細評価をご希望の方へ

高圧・特別高圧の発電所については、実発電データにもとづく収支試算、 地点別の出力抑制リスク定量評価、蓄電池併設時の収支シミュレーション、 発電健全性診断など、独立の立場からのデータ分析を個別にお引き受けします。

COLUMN — 解析事例・技術検証

自社環境で実施した解析・検証の記録を公開しています。 使用データ・手法・検証過程は、すべて記事内に明示します。

解析:0.01円で売られる太陽光 — 市場飽和の定量化(2024–2026)

JEPXスポット市場の最低入札価格は0.01円/kWh——買い手がつかず、事実上「値段がつかない」 状態を意味します。各エリアの太陽光供給実績(30分値)とエリアプライスを突き合わせ、 「太陽光の発電量のうち、0.01円コマの時間帯に発電された割合」を集計しました。 出力抑制が「物理的に捨てられる電力」だとすれば、これは「発電できても値段がつかない電力」であり、 市場飽和のもう一つの顔です。

0.01円コマ発電割合の月別推移

Fig.1 太陽光発電量に占める0.01円コマの割合(月別・エリア別)。 各エリアの太陽光供給実績(30分値)で加重。春・秋の晴天×軽負荷期に集中する。

九州は2026年5月に67%。東北の急伸が新しい局面

九州では2024年春からすでに5〜6割が0.01円コマに沈む状態が常態化していましたが、 2026年5月には67%と過去最高水準に達しました。より注目すべきは東北で、 2024年には春でも3割程度だった割合が、2026年春には4割超へ急伸——市場飽和が 九州・四国ローカルの現象から、全国的な構造へ広がりつつあることを示しています。 首都圏(東京エリア)でも春には1割前後が観測されるようになりました。

エリア四国九州東北北海道中国関西中部北陸東京
0.01円コマ発電割合20.5%19.3%12.7%12.2%10.4%4.9%4.6%4.1%2.9%

直近12ヶ月(2025/07〜2026/06)の発電量加重平均。年平均では四国が九州を上回る。

九州 時間帯×月別ヒートマップ

Fig.2 九州エリアの時間帯×月別の0.01円コマ発電割合。値段がつかない時間帯は 正午を核として年々拡大し、2026年5月には7時から16時まで達した。

時間帯の構造:昼の「コア」が広がっていく

ヒートマップを見ると、0.01円コマは正午を中心に発生し、その範囲が年を追うごとに 朝夕へ広がっていることがわかります。2024年春は10〜14時が中心でしたが、 2026年5月には7時から16時まで、太陽光の発電時間帯のほぼ全域が 値段のつかない時間になりました。太陽光をそのまま市場で売る限り、 この「コア」の拡大から逃げる手段はありません。

制度は手当てしている。ただし「シフトする者」がさらに報われる

FIP制度はこの問題を織り込んでおり、プレミアム(供給促進交付金)の算定では 0.01円コマの供給量を補正する仕組みがあるため、値段がつかないコマの発電も 実質的にプレミアムでカバーされます。つまり0.01円コマの拡大は、FIP転換を ためらう理由には必ずしもなりません。一方で、蓄電池を併設して発電を高価格帯へ シフトできる事業者は、プレミアムに加えて市場価格の差分をまるごと取りに行けます。 0.01円コマの割合が高いエリアほど、時間シフトの価値は大きい——市場飽和は、 裏返せば蓄電池投資の収益源です。

ご自身の発電所でこの影響がどの程度かは、 FIP転簡易診断(無料)で「市場価格の捕捉率」として確認できます。 実発電実績にもとづく詳細な収支試算・蓄電池併設シミュレーションは個別にご相談ください。

データと手法:各一般送配電事業者公表のエリア需給実績(太陽光発電実績、30分値)× JEPXスポットエリアプライス(30分値)。0.01円コマ判定は約定価格0.01円/kWh。 集計期間 2024年1月〜2026年6月。すべて公開データによる当サイト集計。

解説:FIP転換の実務は「アグリゲーター選び」から始まる

FIP電源になると、電気は市場で売ることになり、30分単位の発電計画の提出と 計画と実績のズレ(インバランス)の精算責任が発生します。これを自前でこなすのは 小規模事業者には非現実的で、実務上は特定卸供給事業者(アグリゲーター)への委託が 標準です。つまりFIP転換の検討は、収支試算と同時に「誰に委託するか」の検討でもあります。

アグリゲーターは2026年7月時点で160社が経済産業省に届出済みです。 大手電力系・商社系・専業スタートアップ・地域新電力系と顔ぶれは幅広く、 手数料水準・対応エリア・受託可能な規模・契約条件は会社によって異なります。 比較検討の出発点として、公表されている届出一覧を検索可能な表に再構成しました。 当サイトはいずれの事業者も推奨せず、紹介料も受け取っていません—— 一覧はあくまで「選択肢の全体像」を掴むための材料です。

アグリゲーター一覧表を見る(160社・検索可)→

出典:資源エネルギー庁「特定卸供給事業者一覧」(2026年7月1日時点)。 委託を検討する際は、ご自身の発電所の収支実態を実発電データで把握しておくと、 各社の提案を受け止める物差しになります(詳細試算はSERVICES参照)。

解析事例:霞ヶ浦 局地気象解析(2025年12月)

茨城県霞ヶ浦を対象に、WRF d02(格子間隔1km)を用いて2025年12月の局地気象を解析しました。 気象庁メソスケールモデル(MSM、5km解像度)との比較を通じ、1km解像度がとらえる 湖面・陸面境界の細かな気象構造を明らかにしました。
積分期間: 2025年11月30日〜2026年1月1日 / 比較データ: JMA MSM 5km

日射量の日変化

Fig.1 日射量(SWDOWN)の日変化バイアス(WRF − MSM)。朝は過大、夕方は過小という非対称な傾向が現れた。

雲種別日射バイアス

Fig.2 雲種別の日射バイアス。薄い液水雲(thin_liquid)が朝の過大評価の主因であることを示す。

湖岸前線分類

Fig.3 12月31日間の湖岸前線発生分類。バックグラウンド風速の弱さ(<2.5 m/s)が発生の鍵となる。

南北断面 収束・IWV

Fig.4 南北断面の収束場と可降水量(IWV)。湖面蒸発による水蒸気の局所蓄積が1km解像度で確認できる。

12/11 前線通過

Fig.5 12月11日の湖岸前線通過プロセス。前線直前に湖上IWVが急増し、通過と同時に南北均質化する。

大気循環模式図

Fig.6 冬型モンスーン時と湖岸前線時の大気循環模式図。5km MSMでは格子内に平滑化される構造を捕捉。

検証事例:WRF日射量の精度検証と雲スキーム感度実験(仙台 2025年12月)

数値気象モデルの出力は、観測との突き合わせによる検証を経てはじめて意思決定に使えます。 本検証では、WRF(d02格子間隔1km)による2025年12月・1ヶ月の再現計算を仙台の気象官署観測値と 突き合わせ、気象庁MSM(5km、データ同化あり)を参照モデルとして精度を定量評価しました。
物理スキーム: WSM6 / RRTMG / YSU / 比較観測: 仙台管区気象台 / 期間: 2025年12月1日〜31日

基本気象要素:1km解像度の強み

変数モデルバイアスRMSE相関 r
気温 [°C]WRF (1km)+0.061.340.946
MSM (5km)−0.911.540.955
風速 [m/s]WRF (1km)−0.261.890.491
MSM (5km)−1.562.080.673
相対湿度 [%]WRF (1km)−6.812.00.721
MSM (5km)+4.310.20.766

気温はWRFがバイアスほぼゼロ(+0.06°C)とMSM(−0.91°C)を明確に上回り、 風速の系統誤差も大幅に小さい結果となりました。5kmでは表現できない地形・都市の影響を 1km格子が拾えていることを示します。一方、相対湿度はWRFが乾燥側、MSMが湿潤側へ偏る 対照的な特性が確認されました。

日射量:既知の正バイアスを定量化する

モデルバイアス [W/m²]RMSE [W/m²]相関 r
MSM (5km)+6.775.50.884
WRF icloud=1(標準)+51.6102.30.859
WRF icloud=3(感度実験)+44.695.50.868

WRFの日射量には晴天側へ偏る正バイアスが現れました。これは海外の研究でも繰り返し 報告されているWRFの既知特性で(Shan et al. 2022, JGR: Atmospheres ほか)、 主因は層状雲の発生を捉え損ねることにあります。本検証でも、バイアスの大きい日の大半 (13ケース中12ケース)で、観測されている曇天をモデルが晴天として再現していることを 確認しました。「冬型気圧配置の強さが原因」とする仮説も検討しましたが、500hPa気温・ 北西風成分と日射バイアスの相関はいずれも r≒0.04 と無相関であり棄却。 問題は天候パターンではなく、雲分率の診断そのものにあると特定しました。

感度実験:雲分率スキームの変更で13%改善

原因特定を受け、雲分率の診断をXu-Randall法(icloud=1、雲水量ベース)から 相対湿度を反映するThompson法(icloud=3)へ変更する感度実験を実施しました。 月平均雲分率は0.36→0.51へ増加し、日射バイアスは+51.6→+44.6 W/m²(13%改善)、 RMSEも6.8ポイント改善。ただしこれは診断的な補正であり、根本的な改善には 衛星雲データの同化(MAD-WRF等)が必要になる、という見通しまで整理しています。

仙台2025年12月 時系列比較

Fig.1 気温・相対湿度・日射量の1ヶ月時系列(黒: 観測、紫: icloud=1、赤: icloud=3)。 観測の日射が上がらない曇天日に、モデルだけが晴天のピークを出す日が点在する——これが正バイアスの正体である。

日射量 散布図と日別バイアス

Fig.2 日射量の散布図(icloud=1 / icloud=3 vs 観測)と日別バイアス。 バイアスはほぼ一貫して正側(晴天側)に偏り、icloud=3で午前を中心に緩和される。

icloud=1→3 改善量まとめ

Fig.3 icloud=1→3による指標の変化。日射量のバイアス・RMSEが改善する一方、 気温・風速はほぼ不変であり、スキーム変更の副作用がないことを確認した。

こうしたバイアスの定量化 → 原因仮説の検証 → スキーム変更による改善確認という 一連の手順は、SERVICESの「精度評価・バイアス分析」として提供しているものと同じです。

検証事例:WRF日射バイアスの地域間一貫性と中層雲の過少評価(山口県 2025年12月)

仙台の検証で特定した「雲の見逃しに起因する日射の正バイアス」が、気候条件の異なる地域でも 再現されるかを確認するため、山口県中央部を対象に同一の物理スキーム構成 (WSM6 / RRTMG / YSU、d02格子間隔1km)で2025年12月・1ヶ月の再現計算を実施しました。 MSMとの格子点比較(88地点・64,680レコード)に加え、AMeDAS 2地点(秋吉台・豊田)の 日照時間観測で検証しています。

AMeDAS日照時間での検証:山口でも「晴れすぎる」WRF

地点モデルバイアス [h/h]RMSE [h/h]相関 r
秋吉台WRF (1km)+0.310.510.397
MSM (5km)+0.070.410.433
豊田WRF (1km)+0.320.520.388
MSM (5km)+0.100.400.483

仙台(日射量)と同様に、WRFは日照時間を系統的に過大評価——つまり実際より「晴れ」として 再現しました。時間帯別では8〜15時に正バイアスが持続し、MSMとの日射量比較では 正午に最大+121 W/m²に達します。

AMeDAS日照時間 散布図

Fig.1 AMeDAS日照時間との散布図(左: WRF 1km、右: MSM 5km / 上: 秋吉台、下: 豊田)。 WRFは観測が0(曇天)の時間帯にも高い日照を出す点が目立つ。

時間帯別バイアス

Fig.2 時間帯別バイアス(モデル − AMeDAS)。WRFは日中を通じて正バイアス、 MSMは朝に負・午後に小さな正と、対照的な誤差構造を持つ。

検証統計まとめ

Fig.3 検証統計のまとめ(バイアス・RMSE・相関)。両地点で同じ傾向であり、 地点固有ではなくモデル特性であることを示す。

原因の特定:中層雲の過少評価

雲層WRF 月平均MSM 月平均バイアス
合計雲量 TCC0.3970.493−0.096
高層雲 HCC0.0850.105−0.020
中層雲 MCC0.1360.327−0.190
低層雲 LCC0.2990.226+0.072

雲量の層別比較により、WRFが中層雲(MCC)を大幅に過少評価していることを 特定しました。雲種別の解析でも、モデルが「晴天」と判定した時間帯(出現率52%)の 昼間バイアスが+153 W/m²と最大であり、実際には存在する雲をモデルが作れていないことを 示しています。仙台で確認した層状雲の見逃しと整合する結果です。

結論:WRFの日射正バイアスは地点固有の問題ではなく、雲の診断に起因する系統特性です。 系統特性は「知っていれば補正できる」誤差であり、地域・季節ごとのバイアス定量化こそが、 モデル出力を実務に使うための前提になります。

ABOUT ME

物理学をバックグラウンドに、数値シミュレーションからデータ基盤・Webサービスまでを 一人で設計・実装・運用しています。

  • 物理学科 卒業
  • 気象学 修士号取得

技術的経歴

01

データ解析からの出発

学生時代にプログラミングを開始。実験・観測データの解析と可視化を通じて、 計算機で物理を扱う基礎を身につける。

02

スーパーコンピュータでの数値シミュレーション

大学院では大気物理学を専攻し、スーパーコンピュータ上での数値シミュレーションにより 研究を遂行。並列計算と大規模データ処理を実地で経験する。

03

数理モデルの市場データへの応用

オープンソースの金融データをもとに、暗号資産・為替(FX)の売買モデルを構築。 バックテスト・ウォークフォワード検証・データリーク検出といった検証手法を体得し、 少額ながら実資金での自動売買運用までを一貫して経験。

04

Webサービスの開発・運用

並行して独自のWebサービス開発を開始。気象データ配信API、ファイル共有サービスなどを 設計から実装・Linuxサーバーでの常時運用まで担当。cronによる自動データ収集基盤や データベース設計を多数構築する。

05

現在

WRFによる局地気象解析と、電力市場データ(JEPX・エリア需給実績)を組み合わせた 再エネ収益性評価を軸に活動中。

このほかにも、ニュースの自動収集・翻訳、不動産市況モニタリング、資格試験過去問の データ構造化、音声合成の実験など、「データがあればまず触ってみる」方針で 小さなプロジェクトを多数開発してきました。分野を問わないこの雑食性が、 技術選定と実装スピードの引き出しになっています。

技術スタック

  • 言語:Python / Fortran / SQL / Bash
  • 数値シミュレーション:WRF・WPS / MPI並列計算 / NetCDF / GRIB2
  • 機械学習・データ分析:LightGBM / Optuna / pandas / NumPy / matplotlib
  • データベース:PostgreSQL / DuckDB / SQLite
  • Web・インフラ:FastAPI / nginx / systemd・cron / Ubuntu Server